Three to Four

毒にも薬にもならない文字の羅列

1〜7月に読んだ本

通勤時間の目が冴えているときにしか読まないので、今年は特にペースが遅いが、ここらで少し紹介しておく。

 

三体Ⅲ 死神永世 上/下(劉慈欣)

昨今のSF業界で名前を見かけない日はないくらいのマスターピース、三体三部作のラスト「三体Ⅲ」をようやく読み終えた。分量的にひじょうにボリューミーでありながら、その中身のスケールはそれ以上に壮大。第一部である「三体」を読んでいた頃からは想像もできないところまで到達してしまって、始終著者の発想力に驚嘆し続けていた。魅力的な登場人物が多く、海外産SFながらキャラ読みすらできてしまう懐の広さは、原作の良さももちろんだが、やはり翻訳の妙技によるところも大きいように思う。早川書房と各翻訳担当者には感謝しかない。空前絶後のSFエンタメが読みたければ手を出して間違いない。

 

キドナプキディング 青色サヴァン戯言遣いの娘(西尾維新

まさかまさかの「戯言シリーズ」最新刊。西尾維新は「物語シリーズ」のせいで、ズルズルとシリーズを続ける印象があるが、初期の作品はわりとそんなことがなく、スッパリと完結させていたり(未完結させていたり)するので、「キドナプキディング」の発表はあまりに大きな爆弾だった。シリーズとしてはあまりにも大きなブランクがあるのでやや不安を感じてはいたが、さすがに西尾維新だけあってしっかりと「戯言シリーズ」の続編であった。この先どう展開するのか、はたまたしないのか。動向に注目したい。

 

メルカトルかく語りき(麻耶雄嵩

ノベルス版が刊行されたタイミングで一度読んでいるのだが、続編の「メルカトル悪人狩り」に手を出す前に再読。このシリーズは探偵メルカトル鮎を主軸にした短編集で、いわゆるミステリなわけだが、一般的なミステリらしい解決や犯人あてとはいかずなかなかに不条理な結末を迎えがち。とはいえよくよく細部を見てみるとこれ以上なく“ミステリ”しているので、多少ミステリの文脈がわかってきたところで読むと刺さるはず。

 

君が見たのは誰の夢? Whose Dream Did You See?(森博嗣

人類の行く末を示唆してくれるWWシリーズももう7作め。WWシリーズは実質的にWシリーズの第二部みたいなところがあるので、シリーズ17作めといってもいいかもしれない。いや、著者の過去シリーズとも密に繋がっていたりするので、もはやこのユニバースは軽く100作以上はいっている。そう考えると超絶大河なわけだけど、毎作新鮮に面白い。

 

十二月の辞書(早瀬耕)

著者の過去作「プラネタリウムの外側」に登場する南雲をメインにした恋愛小説。「プラネタリウムの外側」は読んでいなくても問題ないと思うが、先に読んでおくとより楽しめると思う。早瀬耕の文章は、村上春樹森博嗣を足して2で割ったみたいで、とても文学的で情緒的。読んでいるだけで気持ちがいい文章というのはなかなか稀有。

 

なめらかな世界と、その敵(伴名練)

業界ではやたら話題になっていたこれもようやく読んだ。旬のものは旬のときに手を出すべきなんだろうけど、どうしても数テンポ遅れがち。これは短編をまとめたものだが、どの短編もSFとしても奇想に入るくらい突飛な設定をバックに、話としてはとてもリリカルな内容で、設定の面白さや話のスケールに偏らない近年の日本SFらしさがある。現代日本SFのマスターピースのひとつであることは間違いない。SFが好きだ!という強い気持ちがこれでもかと伝わってくるあとがきも必読。

 

焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技(髙峯和則,鮫島吉廣)

正直なところ焼酎に対する知識はだいぶなく、どんな歴史を持っていてどんな酒なのかを知りたくて読んだ。本の中では焼酎の成り立ちだけでなく、製造の知識まで紹介されていて、かなり踏み込んでいる。その章はとにかくちんぷんかんぷんだったが、一般人ならばそこは飛ばしても問題ないように思う。焼酎は、若い頃に霧島酒造赤霧島を飲んで気になり、その後茜霧島に出会ってからはもっぱらそれしか飲んでいない身だが、麦だとか米だとか、色々手を出してみたくなった。

 

以上8冊。今がだいたい1年の半分ちょっとを終えたところなので、ペースが変わらなければ同じ数くらいは読めるだろう。一応2021年が30冊、2022年が25冊なので、それくらいはいきたいところだがこれは難しいかもしれない。現在読んでいるのは、「楽園とは探偵の不在なり(斜線堂有紀)」と「円(劉慈欣)」。

HD599買ったよ

以前プリンことHD598を愛用していた時期があったのだけど、もう少しカリカリした音が欲しくなって手放した。その後市場に腐るほどあったプリンが一気にその姿を消して、後継のHD599にバトンを繋いだわけだが、そうなってから欲しくなるのが人の性というもの。とはいえHD598の新品はもうなかなかなく、調べてみるとHDD599はマイナーチェンジみたいなものらしい。じゃあそれでいいか。ご時世関係なく、試聴に行くのも面倒だし、そもそもデスクトップで使う開放型を店舗のモバイル機器を使った試聴でいったい何が判断できるんだ、というわけでついついポチった。HD599は、HD599SEという色違いがAmazon限定として売られていて、結構セールで半額とかになりがちなのだが、欲しかったのはプリン色だったので差額はその色味に消えた。

 

 

エージングもしてないしまだまだ全然聴き込んでいないのだが、だいぶ満足している。HD598の記憶と比べながら聴いているが、大きく変わってはいないかな。「解像感がさほどない角の取れた甘い音」ってのがHD598の印象だったわけだけど、HD599もわりとそんな感じ。ただ、ベースやバスドラはHD598のがもっとブーミーだった記憶。音の輪郭がパリッとしてて定位がわかりやすい。ここらへんがしっかりしているとロックとかスピード感のある曲にも合うので、最新の需要に合わせたチューニングをしているのだろう。より万能になった。

頭の形、耳の大きさで個人差あると思うが、HD598から変わらずちょうどいい大きさのカップなので長時間利用も苦にならなそう。今後は据え置きはこれでいく。

今年もスロースターター

ということで2023年1本目のゲームクリアは「イハナシの魔女」に捧げた。

もともとは、もはや電ファミニコゲーマーと双璧をなす最も信頼のできるゲームメディアであるautomatonの紹介記事で知ったタイトル。リリースは去年の夏だったわけなので、半年くらいは手をつけなかった。

automaton-media.com

結果的にautomatonの信頼性はまたしてもぐんと上がった。てかなんで即日プレイしなかったのだろうか。悔み。

というのも「イハナシの魔女」、ハチャメチャに良かった。王道ボーイミーツガールを描きながら、深く練られた構成のシナリオにぶん殴られた気分。目を通していて心地よさすら感じるテキストの安定感も合わせて、中盤くらいからは「終わってほしくない。いつまでもこのキャラクターたちの掛け合いを眺めていたい」とすら思っていた。

正直、序盤を超えてからはほぼ泣きながらプレイしていたまである。部屋でひとりモニターに向かって号泣している成人男性の姿がそこにはあった。

魅力的なアートワークと民俗伝承を絡めた深く練られたシナリオ、プレイ中涙を誘う音楽と瑞々しさすら感じるキャラクター描写。難点をいうならばサントラが(たぶん)ないことだ。ぜひboothかBandcampで配信してもらいたい。

youtu.be

開発元であるフラガリアのこと調べるにあたって、ちょうど都合よく前作「カガミハラ/ジャスティス」のNintendo Switch版がセールをしていたのでホイホイと買った。現状プレイ中のFEが終盤なのでこれとかを終わらせてからになると思うが、この熱のまま手をつけたいところだ。

2022年

今年はまったく更新してなかった。後半がかなり多忙でコンソール等でゲームがまったくできていなかったりしたので、来年はもう少しコンテンツを消化できるようにしたい。

というわけで恒例の年間コンテンツ消費一覧です。

 

1.ロード・エルメロイII世の冒険 1
2.アステリズムに花束を
3.あなたの人生の物語
4.庶務省総務局KISS室 政策白書
5.夏と冬の奏鳴曲
6.銀河鉄道の夜
7.リアルの私はどこにいる?
8.痾
9.はじめての哲学的思考
10.珈琲の世界史
11.リリエンタールの末裔
12.きみとぼくの壊れた世界
13.神の子どもたちはみな踊る
14.紅蓮館の殺人
15.サクラダリセット 5
16.その可能性はすでに考えた
17.死刑 その哲学的考察
18.シャーロック·ホームズの冒険
19.いずれすべては海の中に
20.すずめの戸締まり
21.リコリス・リコイル Ordinary days
22.文学少女対数学少女
23.オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case
24.三体 黒暗森林 上
25.三体 黒暗森林 下

以上25冊。毎年だいたい30冊くらい読んでいるので、今年は少なめということになる。特筆すべきは、やっぱり三体Ⅱかな。三体から1年空いて読んだけれども、その圧倒的なエンタメ性は過去のSFすべてを過去にしかねないもので、万人が読むべきものといってもいい出来。三部作の三体Ⅲは年内に読みたかったが時間が作れなかったのが少し悔やみ。

 

ドラマ

1.日本沈没-希望のひと-(2021)
2.幕末相棒伝(2022)
3.マイネーム:偽りと復讐(2021)
4.梨泰院クラス(2020)
5.SHERLOCK シーズン3(2013)
6.オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ シーズン2(2022)
7.ザ・クラウン シーズン4(2019)
8.霊媒探偵・城塚翡翠 (2022)
9.イカゲーム(2021)
10.鎌倉殿の13人(2022)
11.invert 城塚翡翠 倒叙集(2022)
12.警視庁考察一課(2022)
13.First Love 初恋(2022)

ドラマは13本。ザ・クラウンのシーズン5が11月に配信されたんだけど、まだ見切れていない。これも来年はもっと頑張りたい。

 

映画

1.真・三國無双(2021)
2.アルプススタンドのはしの方(2020)
3.宇宙でいちばんあかるい屋根(2020)
4.思い、思われ、ふり、ふられ(2020)
5.劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語(2012)
6.劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 後編 永遠の物語(2012)
7.映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ(2021)
8.RE:cycle of the PENGUINDRUM 前編 君の列車は生存戦略(2022)
9.A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー(2014)
10.えんとつ町のプペル(2020)
11.必殺!恐竜神父(2018)
12.夏への扉−キミのいる未来ヘ−(2021)
13.ペンギン・ハイウェイ(2018)
14.少女☆歌劇レヴュースタァライト再生産総集編 ロンド・ロンド・ロンド(2020)
15.劇場版 少女☆歌劇レヴュースタアライト(2021)
16.劇場版RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編] 僕は君を愛 してる(2022)
17.劇場版魔法少女まどか☆マギカ新編 叛逆の物語(2013)
18.雨を告げる漂流団地(2022)
19.流転の地球/さまよえる地球(2019)
20.劇場版 TIGER & BUNNY The Beginning(2012)
21.劇場版 TIGER & BUNNY The Rising(2013)
22.ゴジラvsコング (2021)
23.花束みたいな恋をした(2021)
24.20世紀のキミ(2022)
25.すずめの戸締まり(2022)
26.あのこは貴族(2021)
27.シン・ウルトラマン(2022)
28.エノーラ・ホームズの事件簿2(2022)
29.RRR(2022)

映画は29本。これは50本を目標にしているので論外。RRRは神。

 

アニメ

1.魔法科高校の劣等生 追憶編(2021)
2.逆転裁判 〜その「真実」、異議あり!〜(2016)
3.平家物語(2021)
4.逆転裁判 〜その「真実」、異議あり!〜 Season 2(2018)
5.地球外少年少女(2022)
6.大正オトメ御伽話(2021)
7.アグレッシブ烈子 シーズン3(2020)
8.ザ・カップヘッド・ショウ!(2022)
9.輪るピングドラム(2011)
10.TIGER & BUNNY(2011)
11.かぐや様は告らせたい−ウルトラロマンティック−(2022)
12.SPY×FAMILY 第1クール(2022)
13.リコリス・リコイル(2022)
14.海賊王女(2021)
15.サイバーバンクエッジランナーズ(2022)
16.Engage Kiss(2022)
17.リトルウィッチアカデミア(2017)
18.名探偵コナン 犯人の犯沢さん(2022)
19.SPY×FAMILY 第2クール(2022)
20.ぼっち・ざ・ろっく!(2022)

以上20本。アニメはだいぶ見た年だった。輪るピングドラムは再度視聴なので除外するが、サイバーバンクエッジランナーズリコリス・リコイル、ぼっち・ざ・ろっく!の3本は年間どころか、オールタイムベスト級の傑作だった。このレベルのものが毎年見れるととてもありがたい。

 

ゲーム

1.BLUE REFLECTION TIE/帝
2.レッツプレイ!オインクゲームズ
3.DeemoⅡ
4.7 Days to End with You
5.ELDEN RING
6.TRYANGLE STRATEGY
7.大逆転裁判1&2
8.OPUS 地球計画
9.fault - StP - LIGHTKRAVTE
10.ファイアーエムブレム無双 風花雪月
11.ゼノブレイド3
12.Needy Girl Overdose
13.Splatoon 3
14.OPUS 星歌の響き -Full Bloom Edition-

以上。例年より10本ほど少ないので反省。個人的GOTYを挙げるなら…、悩むけどゼノブレ3かなと。ELDEN RINGも素晴らしかったが、プレイしていてあまりの長さに疲れて終盤付近で積んでしまった。クリアまでかかるプレイ時間があんまり長いのも考え物。特に近年はコンテンツ過多なので、リソースが多大に食われるのはもうつらい。とかいいながらゼノブレイド3は150時間くらいプレイしてる。

 

 

おわり

さて、なんだかんだ今年も良いコンテンツに溢れていた。来年もその兆候がすでに見えてとれるので今から楽しみ。まずは年明け20日後に発売されるファイアーエムブレムシリーズ最新作が待ち遠しくてしょうがない。あとは時間の使い方がもっとうまくなればいいと思う。

2022/11/15

すずめの戸締まり

初のIMAXレーザーで見てきた。ここ最近、劇場に行くたびに、その音響と映像の解像感に不満を持っていたので、より高精細&高音質化したIMAXレーザーには大満足。鑑賞料金に追加で500円かかるが、体験の質向上には安すぎる。やっぱりわざわざ劇場に出向く以上は、家庭と同等の高精細を保ったままの大画面、大きいだけじゃなく迫力のある音響を大事にしたい。

新海誠監督最高傑作と銘打たれていた本作。豪語するだけのことはあったように思う。日本列島を縦断するロードムービーでありながら、ヒロイックな冒険活劇。遠く離れたファンタジーのように見えて、私たちの過ごしている現実のすぐ隣にある傷跡。遠く離れた地から、目を背けていた(背けざるをえなかった)ところに帰る、巡礼の物語。からっとさせるエンタメの部分と、日々のかけがえのなさを残酷に突きつけてくる二面性には脱帽させられた。

また、劇伴にも注目したい。「君の名は。」「天気の子」に続いて、本作もRADWIMPSが劇伴を担当しているが、悪くいえば自己主張の激しかった過去2作とは異なり、あくまで“劇伴”で居続け、「すずめの戸締まり」の一員に終始していた。別にあのMVが悪いわけじゃないが、三度も続けるようなことをしなかったのは高く評価したい。また、陣内一真の参加している、みみず戦の曲がすこぶる良かった。不安を煽るメロディーと杉並児童合唱団のコーラスはまさにRPGのボス戦を彷彿とさせる。もはやこの劇伴でゲームしたいまである。ゲーム版「すずめの戸締まり」……、QTEで戸締まりしていくクソADVゲームになりそうだ。

余談。既読の人は即座に連想できると思うが、本作の一部の設定は村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」からきている。実は「輪るピングドラム」がリブートされたことに伴って、今年に入ってから読んでいたので、「すずめの戸締まり」を読んだ(映画の前に小説を読んだ)ときはとても驚いた。こういうふうに、世の中の創作物にはおおよそそれぞれモチーフになったものが存在するので、そうした知識の積み重ねが、より深く体験の色合いを微細にしていくと思うと、ただの娯楽の消費にも邁進が必要だと考えさせられたりもする。